父が死んだ日、実家でのママの
介護を
即断した私だったが、
介護生活は、
ボディブローのように、私の生活と身体を次第に浸蝕していく。
それは、まさしく
アリ地獄。
「
介護地獄」とは、よく言ったもので、渦中に
うっかり足を突っ込んだら最後、ズルズルと引きずり込まれている。突破口もなかなか見つけられない。
ふだん、私はこのブログでも
「
ゆっくりやっていこう」 とか 「
ゆるゆると」
と、まるで自分自身に言い聞かせるように、
どこかで焦っている自分を打ち消そうとしてきた。
幸いにも、ママも私も
親切な方々に囲まれ、
介護生活の中で、
新たな喜びや幸せもたくさん見つけることができた。
「
それでも、しかし!」 と思う。
●「同居家族」に冷たい介護保険
ママは
介護サービスを嫌がっているけど、私は
自分のためにも、できることならば、介護保険の制度をもっと活用したい。
「ダメ元」とは思いつつも、ケアマネージャーさんに相談してみた。半分、
泣き言だ。
「以前のことがあるので、母は未だに、家に他人が来ることを嫌がっています。
もうホームヘルパーさんが来ていたことも、ヘルパーさんの顔さえ覚えていないのに、それでも
朝になると、ほどんど毎日 『今日はだれか来るの?』 と私に尋ね、『だれも来ないよ』 と答え
ると、ほっとした顔をします。
母は元々、他人に身体を触られるのがイヤで、私が母の肩を揉むことさえ嫌がります。
さらに乳ガンで片方を完全に取ってからは、身体を見せることも極端に嫌がるので、病院での
レントゲン検査なんかも大変だし、ましてや、入浴サービスなどは、絶対にダメです。
でも、朝から晩まで、認知症のママの相手をするのは、本当に疲れるし、毎日の食事や洗濯
などもあると、正直、仕事をする気力も湧かないし、集中して取り組める時間も少ないのです。
ふと、以前ヘルパーさんにやってもらっていたことの中で、唯一ママが嫌がらなかったことが
あるのを、思い出したのです。
それは、『掃除』 です。
ママがいる部屋では、さすがに食事中に掃除はできないので、お風呂やお手洗いなどを
ママの食事中に、部屋の戸を閉めてから、やってもらっていました。
ママと離れた場所で、やってくれるからなんです。
だから、ママは掃除については、一切嫌がらず、私も 『すごくきれいになったねぇ』 と
ママに声を掛けていたからか、ママも 『ありがたいねぇ』 と言っていました。
掃除も含め家事は、もちろん私ができるのですが、どんどん負担が増えていくので、
それを少し軽減するためにも、例えば、掃除だけをやっていただくのは可能でしょうか?」
そう尋ねた数日後、ケアマネージャーさんは 「
可能かもしれませんよ」 と、ある訪問介護サービス事業者さんを連れて来た。
が、開口一番、
「
同居家族がいる場合に、生活援助だけ、というのはできないのです。」
私は思わず、
「
住民票なども東京のままで、ここには移していません。
それに本当は、もう少し東京に戻る期間を増やしたかったのですが、母の状態では、そんなに
長く、ここを空けることもできません。往復の交通費なども相当の金額だし、母の状態も安定
しないし、そんなに行き来を増やすことは、負担が大きくて、できないのです。
だから、結局、多くの日々をここで過ごさざるを得ないのです。
そうすると、今度は『同居家族』と見なされるわけですか?」
と言った。
「
住民票がどこにあるかではなく、娘さんが、ここにいる期間は 『同居家族』 なんです。
東京に帰られている時であれば、生活援助だけも可能ですよ。」
「
母は日付や時間の感覚があまりないし、他人が来るのを嫌がるから、私が留守をすると、
無意識なのか、意識的なのか、ヘルパーさんが来る時にいなくなってしまうのです。
以前もそれで、『当日キャンセル』 として、全額支払ったことがあります。
私がいない日にならOK、というのは、うちにとっては、『サービスを使えない』 ってことです。」
「
一つ、方法がないわけでは・・・。入浴やお手洗いの介助という身体介護を行えば、生活支援も
合わせて行えるのです。」
「
残念ながら、それも無理です。今の所、母は身体は動くから、必要のない助けを借りるなんて、
絶対に本人が納得しませんから。多分、ものすごく嫌がって、以前の二の舞になります。」
「
私たちとしては、気持ちの上では、娘さんのおっしゃる形でサービスを提供したいのです。
こちらに限らず、多くのお宅で、いろいろな事情があって、それぞれの希望にできるだけ沿うように、
やりたいのです。
でも、 介護サービスの制度が、それを許しません。
だから、困っている人は多いのです。
現場でいつも感じるのは、制度が変わるごとに、どんどん使いづらくなっていることです。」
「
じゃあ、私のように、やむを得ず、要介護者と一緒に過ごす時間が増え、それを同居家族と
見なされたら、今度は、『同居家族がいるから』 という理由で、介護サービスが制限され、
益々、他を犠牲にして介護に向かわなければならなくなってしまいますよね?」
これには、ケアマネージャーさんも、訪問介護サービス事業者さんも、
「
本当にその通りなんです。でも、これが現実なんです!」
と、声を揃えた。
「
ちまたでは、『仕事も生活も、なんていう、ワークライフバランスを推進している』 と言いながら、
これじゃ、全く反対で、一度、家族の介護に足を踏み入れたら、仕事に戻るなんて夢のまた夢
です。」
「
本当に、本当に、そうなんです。みんな、介護のために、どんどん仕事を辞めているんです。
私たちの仕事には、家族支援も含まれているわけなのに、制度は画一的なんです。
『在宅介護したいなら、じゃあ、デイサービスにどんどん行かせろ!』 ってことなんです。
現場が声を上げても、なかなか良い方向に変わらないから、いろいろな家族を見ている私たちも
辛いんです。」
●ママが望む当然のことを叶えてあげたいだけなのに
介護保険制度は、ありがたい部分もたくさんあるけど、
個々の事情を反映して、ということになると、そういうのは不得手らしい。
自分を育ててくれた、私にとっては世の中にたった一人の、かけがえのないママが、人生の最期に差しかかりつつある。そういう時にママが望む
「自分の家で過ごしたい」 を叶えてあげることが、こんなにも難しいなんて!介護と、仕事と、自分の生活(家族)との3つの狭間で何をすべきか、時々、見失ってしまいそうになる。
ふと、ケアマネージャーさんが尋ねてきた。
「
そうそう、デイサービス、結局、どうするのですか?」
やっと慣れてきた、と思っていた矢先の新たな問題。これについては、また
後日。
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テーマ:認知症の介護 - ジャンル:福祉・ボランティア